〜瓦礫 線路 忘れた夢〜 わたしたちは旅をしているのです。 ながいながい、終わりなどない旅を。 道は幾重にも分かれ、果てなどまるで見通せません。 それでもわたしたちは歩き続けるのです。 どこへ向かっているの? ここはどこ? やがてたどり着いたのは一面まっくらやみの世界。 誰もいない。 わたし一人だけ。 彼女は果たして道をあやまってしまったのでしょうか。 見通せぬ道を、彼女の意思で歩み、たどり着いた場所。 そこをあやまちの地と呼んでも良いのでしょうか。 ちがいます。 彼女は自らその道を選び取ったのですから。 それは、ただ一つの彼女の答えなのです。 助けて・・・・・・ 助けてよ・・・・・・ 誰か・・・・・・たすけ・・・て。 その声を聞きとめるものはおりません。 夜の世界は真空のように音を響かせず、むなしく幻と消えるだけ。 その声が、もしまだ道が見渡せる時に発せられたのならば、あるいはだれかがその声をたよりに、彼女のもとへとかけつけたかもしれません。 一人歌う。 どこへも届かない歌。 誰もほめてくれない・・・・・・ 元気を出そうとして歌った歌は、逆にわたしをむなしく切なくさせる。 涙でぬれた土。 そっとなでてやると、それがもとで命を引き取ったように、もろくも崩れていきます。 ここはどこだろう。 あたりは瓦礫ばかり。 街を埋め尽くしていた建物が全部壊れちゃったみたい。 おおきなこどもが暴れて、おもちゃをこわしてしまったのかも。 ・・・・・・うん。歩こう。 彼女は少しでも楽しいことを考えようとし、また歩き出します。 そして彼女は見つけました。 うすぼんやりと黒い海に浮かんでいるような線路を。 どこか遠くから届く淡い光。 それに照らされた線路の上を彼女はたどっていきます。 呼んでいるの? だれかいるの? 人形が操られるように、彼女はふらふらと光のもとへと進んでいきます。 そして彼女は立ち止まりました。 あれは・・・・・ そうか、わたしを迎えにきたんだね。 罪人のわたしを轢(ひ)きに。 おぞましい化け物のようなそれは、かすかに列車の影を残していました。 世界の終わりのような叫び声をあげて、ゆっくり、ゆっくりと近づいてきます。 彼女は魅入られたように、その禍々しいものを見上げていました。 わずかに姿をのぞかしていたヘッドライトは、いつのまにか化け物の体内に飲み込まれ、 目の前は やがて暗く 世界の すべてが のみこまれて・・・・・・ ここは? 海の中みたいに心地よい。 海を包む壁はあふれんばかりの光を放っている。 それにくらべ、わたしのまわりはその光を食べているかのように暗い。 あの光を求めて、手をのばす。 頭がぼうっとする。 なにか恐ろしい夢を見ていたような気がした。 瓦礫の中を、一人歩いて・・・・・・ あれ? そのあとは・・・・・・なんだっけ? 体が動かない。 頭が焼けるように熱い。 やがてその熱は、背中にまで伝わって、それはすぐに猛烈な痛みへと変わる。 痛い。 背中が。 あぁ!! そして彼女は気を失いました。 背には灰色の羽。 付け根は黒く淀み・・・・・・ 彼女が目覚めるのはまた先の話。 彼女の声を聞き届けるものと出会うのも、また・・・・・・先の話。