(枕)---------------------------------------------------------------------------- Kana×Rakka 〜Broken Wings このお話は、同人誌「灰羽新書」に収録されている西脇だっとさんの作品 「Winter's come」のパクリです。ごめんなさい。 つまんなかったら私のせい。少しでも興味がもってもらえるのであれば、 それは西脇さんの作品の力です。 hanenosuさんにはこのようなお祝いの機会を与えてくださり、感謝、です。 灰羽は、意識の底に何があるのかをのぞかせてくれる物語だと思います。 深入りはできませんけど。 最終回では、終わって本当に良かったと思えたし、 そう思えたのはきっと、この物語の言い知れぬ何かが私に触れたから。 自分の中の何かを敬虔に表現したところに、フッと魔法がかかったような、 そんな印象です。 (本編)------------------------------------------------------------------------- Kana×Rakka 〜Broken Wings  レキ  グリの街にまた冬が来ました  この肌寒い季節がやってくると  どうしても、貴女のことを思い出してしまうのは  ・・・仕方のないことだと思います  仰ぎ見る空は、ビロードを広げたよな静けさ。灰色の淡さを澱みなく、 壁にまで広げていく。  ここは時計塔より少し低くて、でも、寝転がるといつも違う光景があって、 これはこれでいい。  静かに時をやり過ごすとき、何かのひらめきを待っているとき、アタシはここに来る。 とか言って、ただぼーっしてるだけじゃんとか思うんだけど、 空を見てると、そんなことすらも忘れてしまう。  静かな、空ろな響きの中に、アタシの何かが浮いている。  「・・・よっっっと・・・」  体を起こした。遠くに眺める街の向こうには、壁。 壁が横に一直線、空と下を区切っている。 「・・・どっちを向いても壁」 壁は、ぐるりと弧を描いて、街や森や寺院、すべてを囲むように、輪になってつながる。  いつものことなんだけど。  けど、いつものじゃない、アタシがここにいたりする。  適当につぶやいてみる。 「・・・こんな気持ち」 Ah 「・・・うまく言えたことがない」  鳥がいない。静かなわけだ。もうすぐ冬だから、冬眠するのか。え? するのか、冬眠。  ここには、誰もいない。 「かな〜」  あ。ラッカか。あ、寒いわ。なにやってんだアタシ。  我に返り、声のするほうに向かってみる。テラスを見下ろしてみると、 ダッフルコート着たラッカがアタシを探していた。  「ぅぉお〜ぃ」 屋上の端から、身を乗り出して呼んでみる。 「カナ!」 手なんか振ってみたりして。 「あぶな危ないよっ」 「あはは」 ふふん、落ちるもんか。 「ラッカもさ、上がってきなよ」  ラッカが上がってくるまで、ちょっと間があった。座って周りを見る。やっぱり、壁。 少し空に、影の色が濃くなった気がした。  「カナ!」 「ん」 屋上の端、鉄製の梯子を手にしたラッカが、不安げにアタシを見てた。何かマヌケ。 「ホラ」 梯子の上は短くて、屋上の陸屋根に上るのにちょいと力が要る。 手を差し延べ、ラッカの手のひらを握って引き上げた。 「あ、ありがと」 返事をするでもなく、アタシの目はまた空の、影の色へ。うねるような濃淡が出てきた。 「はぁ・・・」 自然と手はコートのポケットの中に。うねりは、胸騒ぎの色を濃くする。  「じきに、雪だね」 「うん・・・」  そして、そのうねりの先には 「どっちを向いても、壁だ」  「・・・うん・・・」  ・・・あれ、何か違う。ラッカの顔を、横目で見る。  ラッカは、アタシと同じように空を見ていた。壁を見ていた。  でも、見ているものが何か違う。不安そうに見える。 それはたぶん、いつかのカノジョの姿に思いを巡らせるよな、どこか儚げな視線。  「ラッカ」いらぬ節介。つい、アタシの地が出る。 「アタシはさァ」違うよ 「ワクワクしてるんだ」そうじゃないんだよ  「どんな理由でアタシがここに」この胸のざわめきは、これから出会う 「生まれたのかわからない」見知らぬ出来事への期待と 「だけど・・・」生きることの痛みの 「あの壁の向こうに」あいだで蠢いている 「アタシの知らない世界がある」そんな気がするんだ  「そこでアタシは、」あ、バカ 「今度こそうまく」勝手なこと言って 「やっていける」レキがいま何をしてるなんて  「・・・そんな気がするんだ」わかるわけないじゃんか  ・・・祈るしかないじゃんか  何か、たまらなくなった。自分らしくない振る舞いをした気がする。 朝メシ、まだだった。 「・・・さって、メシメシ!」 ラッカの目を見ないように、下に降りようとした。そのときだった。  羽が、黒い羽がはばたいた。  視界の端に、一瞬、黒い瞳が映った。  もういない。  風が吹いてきた。  雪が、もうすぐグリに雪が降る。  レキ  人肌恋しいこの季節に  どうしても、  貴女を思い出して寂しくなってしまうのは・・・ (了)